ベイサイド 防波堤
サンフィエロ北、ガントブリッチを下ると広がるのはサンフィエロのビル群が一望できる小さな港町。
「ベイサイドエリア」と呼ばれるこの地域はボートスクールや、ヘリポートを有しており、田舎とはいえ、それなりに栄えている場所の一つだ。
都市部へのアクセスも比較的良いのも大きいだろう。
そんなベイサイドのサンフィエロを一望できる防波堤に彼女は居た。――カーラ・ラダメス
何故彼女はここに居るのかはわからない。ましてや朝日が昇り始めたこの早朝だ。
Calra(Ca)「…忠告しておいたけれど、派手にやっているみたいね」
カーラはサンフィエロを見つめながら口にする。
――忠告。おそらくは彼女がジェイクにした”忠告”のことだろう。
?「遅れてすまない」
Ca「…遅かったわね。まぁいいわ…車に乗ってちょうだい」
そこに現れたのは一人の男。カーラに声を掛ける。おそらく彼女と待ち合わせでもしていたのだろう。
その声に気付いたカーラは自分が乗り付けてきたコノシェンティにその男を乗せる。
Ca「…それで、そっちに何か動きがあったのかしら?」
相手の男はベストを着ており、その胸には「ZPD」を示すマークが描かれている。…となるとこの男は警官だろうか。
?「ああ、スカーレットグループに関することでZPDが尻尾を掴んだらしい。今日の昼過ぎにでもZPDは奴らの寝床にガサ入れをするだろう」
Ca「…随分仕事が速いのね。それで?あなたみたいな下級の警官が何で知っているのかしら?」
?「単純な事さ。ZPD全体で捜査が始まることになったのさ。俺がその”ガサ入れ”を担当する警官ってことだ」
Ca「なるほどね。それで…流石に今すぐ公共電波で”流す”のは不味いのでしょう?」
?「当然に決まってる」
Ca「なら話は早いわ。ガサ入れが終わってから私にメールを送ってちょうだい」
?「ああ…いいだろう」
Ca「いつもの口座に振り込んでおくわ」
カーラは微笑みながら男の方を向く。男は呆れたような表情を浮かべながら、カーラの方を向いたかと思えば、そのまま車から降り後にする。
カーラは黙って男を見届ける。男はそのまま角を曲がると見えなくなった。
Ca「後は彼からのメールを待つだけね。結果がどうであれチャンネル6が最初に放送をすることになるのだけれど」
カーラは嬉しそうな顔をしながら、車を走らせる為にアクセルを踏む。
と、ここで彼女は一つの広告に気付く。――”マーガトロイド探偵事務所”
Ca「探偵事務所…? サンフィエロにそんな探偵事務所があったのね。面白そうね…少し依頼でも出してみましょうか」
カーラは後部座席にある鞄からノートパソコンを取出し、起動する。
メールを開き、カーラは広告を見ながら記された連絡先へと連絡を取る。
TO:マーガトロイド探偵事務所
FROM:カーラ・ラダメス
TITLE:調査依頼
TV TOHOのCEO「射命丸文」についての詳細情報とTV TOHOの詳細情報の調査を依頼します。
報酬は内容を持ってして、決めさせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。
彼女はメールを打つと、送信ボタンを押す。無事に送信されたのが確認されるとパソコンを閉じ、鞄へと仕舞い、助手席の上に置いておく。
Ca「…良い情報が得られるといいのだけれど」
サンフィエロ ハシュバリー マンション
午前10時過ぎ。ジェイクは日ごろの疲れからか、この時間になってもベッドで横になっていた。
ジリリリリリ!
ジェイクのうるさい着メロの携帯が鳴り響く。
Jake(Ja)「あー…うっせぇな…今何時だと思って…」
ジェイクは眠い目をこすりながら、鳴り響く携帯に目を落とす。
表示されている時刻は”10:23AM”
Ja「…そういや今日サーシャに頼まれた仕事があったような気がするな…」
ジェイクは顔を少し青くしながら、着信記録を確認する。案の定記録として残されていた名前は”サーシャ”
1回だけと思われていた着信記録は合計で3回に及んでいた。他にもシェリーから2回ほど着信があった。
Ja「ヤベェなこりゃ…急がねーと」
ジェイクは起き上がると、すぐさま必要な物をまとめ、車のキーを持ち出す。その時間わずか1分。
足早に部屋を後にし、鍵をかけるとエントランスにあるポストに投げ入れる。
普段彼は持ち歩くことはせずに、常にエントランスにある宅配物集配用のポストに鍵を突っ込んでいる。
と言うのも、仕事柄持ち歩くのは危険であるからだが、かえってセキュリティー性に欠けるような気もするが…。
ガレージにすぐさま向かい、入れておいたインポンテ デュークスに乗り込み、エンジンを掛け急発進させる。
さすがは70年代の古き良きアメリカンマッスル。驚異的なスピードで急発進を見せてくれる。
ジェイクはこのじゃじゃ馬のようなマッスルカーを旨い具合に扱いこなし、通りへと走らせる。
その間に、彼は携帯でサーシャに連絡を取る。
Ja「あー…サーシャか?」
Sasha(Sa)「何やってるんですか!?約束の時間から2時間も経ってますよ!!」
Ja「すまねぇ…日頃の疲れがたまってたみたいでよ、爆睡しちまった」
Sa「何でもいいので早く来てください!」
Ja「仕事ったって何の仕事だよ?」
Sa「無駄口叩いてる暇あったら車飛ばしてすぐにでも拠点に来てください!」
一方的に咎められ、一方的に電話を切られてしまう。もちろんジェイクが悪いので彼が言えることではないが。
Ja「んな怒らなくたっていいだろうよ…」
ジェイクは参ったなという表情で車を走らせる。無論彼の家からルチャドールズの拠点までは信号無視をすれば10分程度で付く距離なのだが。
拠点へと到着すると、ジェイクは車のエンジンを切り、キーをポケットに入れておく。
Sa「2時間の遅刻ですよ!!わかってるんですか!!」
ジェイクが拠点に入って早々、サーシャはジェイクに怒鳴り散らす。
Ja「…んなこと言われたって最近忙しかったんだぞ?」
Sa「シェリーとまた愛の巣でまたやろうとしてたんですよね、私知ってますよ」
Sherry(Sh)「まぁまぁ、サーシャちゃん。ジェイクも来たことだし…そんなに怒らないであげて? ジェイクもここの所忙しかったんだし」
Sa「はぁ…仕方ありませんね。今日は見逃します。今日は」
Sh「ありがとう、サーシャちゃん」
怒り狂うサーシャを穏やかに微笑むシェリーが抑える。
ジェイクはシェリーに小声でありがとう、というと本題を切り出す。
Ja「それで…何の仕事だよ?」
Sh「爆弾を作るのに必要な素材を集めるの。それをジェイクに持ってきてもらいたくて…」
Ja「爆弾? 何に使うんだよ?」
Sa「簡単な話ですよ。ボスからの命令でエイリアンの軍も居る海軍基地を襲撃するんですよ」
Ja「何でそんな場所を襲うんだ?」
サーシャから伝えられたのは、ボスの思い付きで計画されたゼン帝国軍も使用する海軍基地の襲撃。
しかしあのボスが計画的な行動に出ると誰が予想しただろうか。
Ja「いつもならそのまま突っ込んで終わりだろ? なんで今回に限って計画的なんだ?」
Sa「というのも、ボスは殴りこみじゃなくて基地にある”栄養剤”を必要としてるんです」
Ja「栄養剤…?」
Sh「ゼン帝国が地球に持ち込んだ増強剤みたいなものなの…効果はすべてはわかっていないけれど…」
Ja「なるほどな…それで何が必要なんだ?」
Sa「ジェイクさんには建設現場にゴミ収集車を盗りに行ってもらいます」
Ja「ゴミ収集車? なんでそんなものが必要なんだよ?」
Sa「トラック爆弾を作るんです。敵の注意はそれで逸らして、その間にボートで基地内に侵入します。ターゲットの栄養剤は空母の中にあるという事までは掴めています」
あらかたジェイクは2人からこの計画を聞く。いわゆる”おとり作戦”だ。
と言ってもおとりになるのは爆弾であり誰かが危険にさらされるわけではないのだが。
Sh「私とサーシャちゃんで指示を出すわ。外にダリルさんがヘリを用意して待っているわ。お願いねジェイク」
Ja「ああ、わかった」
シェリーは少し心配そうな顔をしながら、ジェイクを送り出す。
ジェイクはというと手を振りながら”大丈夫だ”のサインを伝える。これまで大きな怪我はないのだ。今回も上手くいくだろう。
Daryl(Da)「よう、ジェイク」
Ja「久しぶりだな、ダリル」
彼はダリル・ディクソン。ルチャドールズの重要なメンバーの1人であり、主に援護を担当している他、”サプリ”や武器と言った取引に使うブツの配達を担当している。
Da「最後に会ったのはいつだったか?」
Ja「確かロアダストの配達の時だったと思うぜ」
Da「となると1週間前だな」
Ja「流石に日数までは覚えてないな」
2人は中々顔が合わせる事がなかったためか、このように1週間程度でもこのような会話を交わす。
ダリルは主に配達などを担当しているため、アタッカーである”襲撃者”のジェイクと顔を合わせる機会は少ないが、2人は仲が良い。
Ja「ダリル、お前も計画に加わるのか?」
Da「ああ、もちろん。ゴミ収集車を配置するのはなんたってこの俺だ」
Ja「お前と仕事するときはいっつも大きいヤマな気がするな…」
Da「んなこと気にするなんてお前らしくないぞ、ジェイク」
2人は穏やかな会話をしながら、ヘリへ乗り込む。ゆっくりとローター数をあげ、北へと舵を取る。
ここでジェイクとダリルはサーシャに渡されていたインカムを付ける。
Ja「サーシャ。ゴミ収集車を盗むわけだが…ダリルも協力するのか?」
その会話を聞いていたダリルはすかさず、
Da「俺はお前をポイントに運ぶだけだ。悪いな、ジェイク」
と答える。サーシャはダリルが先に答えたので、適当に「ダリルの言う通りよ」なんて答えながら、そのまま2人の会話を聞き入る。
その間、サーシャはジェイクとダリルの位置を随時GPSで確認する。2人の付けるインカムにはGPSが付いているのだ。その為、レーダーにはばっちりと2人の位置が映し出される。
ヘリは丘陵地帯を超え、やがてラスベンチュラスにもほど近い、砂漠地帯へと入っていく。
幸いなことに今日の砂漠地帯の天候は晴れ。風速もあまりない為、砂も舞い上がることはない。
Ja「チャンネル6の報道ヘリみたいな色だな」
Da「言われてみればそうだな…この際塗り替えるか」
Ja「リバースカラーの方がこのヘリには合いそうだな」
彼らの乗るバッキンガム マーベリックは民間用ヘリとしてとても名高い安価で高性能なヘリ。
運用元は民間だけでなく、テレビ局や警察機関などにも幅広く採用されている。
Sa「ダリルさん、そろそろポイントの建設現場です。ジェイクさんを降ろしてください」
Ja「だそうだ、ダリル」
Da「了解したぞ、嬢ちゃん」
ヘリはラスベンチュラスから少し外れた建設現場に着陸する。…と言ってももここは厳密には採掘場なのだが。
Da「先に拠点で待ってるからよ、今日は一杯やろうぜ」
Ja「ああ、もちろんだダリル。楽しみに待ってろよ?」
2人はそのやりとりを終えると、それぞれのミッションを遂行する。
ダリルはヘリをそのまま上昇させ、現場を離れ、ジェイクはそのまま歩を歩み始める。
Ja「おい、サーシャ」
Sa「はい、どうしました?」
Ja「…どこが建設現場なんだ? 俺が見る限り採掘場のようだが」
Sa「はあ…そんな細かい事気にしてどうするんですか? 通じればいいんですよ?」
Ja「いや、思ったから言っただけだ」
と、ここで疑問を抱き続けて来たジェイクが指摘をする。
無論彼にとってもサーシャにとってもどちらでもよいのだが。
Ja「…アシが必要だ。移動が面倒だぞサーシャ。近くに乗り物はねーのかよ?」
Sh「今現場のカメラを見てみるわ、ジェイク」
シェリーは現場のカメラをハッキングし、映像を映し出す。
歩を歩むジェイクが小さく遠方に見える。そこから下に下った場所にATVが見える。
Sh「ジェイク、そこから少し下った場所にATVがあるわ」
Ja「助かったぞ、シェリー」
シェリーの言う通り、少し下った場所にはATVが置かれていた。
ジェイクは移動するためにこのATVを盗み、そのまま最下層へと降りて行く。
Ja「そういえば今日はこの採掘場に人はいないのか?
Sa「日曜日なので今日はお休みです。だから人はいないはずです…多分」
工事現場、と言う意味ではあながちあっているのかもしれない。
採掘場には建設途中と思われる機材などが多く置かれている。日曜日がどうやら休止日のようだ。
Ja「何でゴミ収集車が採掘場に置かれてるんだよ…普通街中走ってる物だろ」
Sa「見つけたみたいですね。そのグレーのゴミ収集車がターゲットです」
Ja「ああ、そうかいそうかい」
ジェイクは適当にサーシャをあしらい、ゴミ収集車へと乗り込む。
幸いロックはかかっておらず、すんなりと乗り込むことが出来た。随分と不用心な事だ。
しかし何故、採掘場にゴミ収集車があるのか…それはさっぱり見当もつかない。
物資を輸送するなら、平台のトラックの方が便利だろう。
ドアの鍵が開いているのとは逆に、キーは刺さっておらず、またエンジンも掛かってない状態。
ジェイクはキーピッキングでエンジンを掛けるとギアをドライブに入れ、アクセルを踏む。
ブスン、と言う音と共に排気ガスがマフラーより排出される。
いくら時代が進み、燃費性能が上がったとはいえ、やはりガソリンでないと巨体であるトラックは動かないのだろう。
Ja「この後はどうすればいいんだ?」
Sa「拠点まで持ってきてくれます?」
Ja「ちょっと待て。この距離を鈍足の極みで来いって言ってるのか?」
Sa「ええ、そうですけど何か?」
Ja「ふ ざ け ん な」
直線距離にしてもおおよそ数十キロほどはあるだろう。採掘場からサンフィエロの拠点までこの鈍重の極みともいうべきゴミ収集車で来いというのだから流石にジェイクもキレたくなった。
Sa「…遅れてきた罰ですよ」
Ja「それとこれとは関係ねーだろ」
ジェイクは呆れたように悪態をつく。まったく、女と言う奴は。
平坦に乾いた道をトラックで行く。遠くにはサンフィエロのそびえ立つ摩天楼が確認できる。
カーナビがこの車両にはついていないが、端末の位置情報を見るに数十キロほど離れているようだ。
目立った渋滞もなく、車はスムーズに流れているが、この距離を鈍足の極みのようなトラックで走るのは過酷だろう。
ジェイクはアクセルを踏み込んではいるものの、速度はその力とは比例せず、むなしくも速度が上がることはない。
Ja「ホント、遅いなこのポンコツ…」
ジェイクはしびれを切らせ、さらにアクセルを踏み込む。と言ってもそれをしたところで速度が速くなるわけではないのだが。
Sa「すみません、思ったよりも時間がかかりそうなので右にある脇道から鉄橋に出てください」
Ja「本気で言ってるのか?」
Sa「やだなージェイクさん。私が冗談いうわけないじゃないですか」
Ja「…」
後100mほどで鉄橋をくぐる、というところでサーシャから提案されたのは”鉄橋を通って帰る”という提案。
確かにその方が、高速を通るよりも早く到着ができるが、安全性は確保できない。
ゴミ収集車は、脇道へと入り、鉄橋へと続く鉄道の線路へと侵入する。
Ja「おい、安全なのか?」
Sa「この時間帯にその鉄橋を通る鉄道は居ないので大丈夫…なはずです」
Ja「不安な事言いやがって…」
ジェイクは諦めたような顔をしながら、車両を線路へと侵入させる。
幸い左右共に電車の影は見えない。それを確認するとジェイクは車を線路に乗り上げさせ、サンフィエロのドハティ駅に向けて車を走らせる。
Ja「…帰ったら覚えておけよサーシャ」
Sa「なんか言いましたか?」
ジェイクは運転の疲労から、低くい声で相手に聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟く。
無論、サーシャには聞こえないわけだが。
ゴミ収集車は鉄橋の上を走り続ける。無論バックミラーにもフロントガラス越しにも鉄道の姿はない。
やがて、トンネルを抜け、ドハティ駅がすぐ見える。ジェイクはハンドルを右に切り、ドハティ駅の小さなロータリー
を抜け、通りへと出る。
陽は殆ど沈みかけ、暗闇が街を支配し始める。
時間も時間であるため、ライトを点灯している車も多く、町には明かりが多く灯され始める。
そんな中で不気味に赤色に光るレッドメタルを使用したゴミ収集車のホイール。ひときわ目立つその色に目が釘付けの人も多いようだ。
Ja「やっと到着か…」
ため息交じりに、ジェイクはトラックを拠点の、それも道路からは見えない、影になる場所へと運び込む。
仮にも盗難車だ。ZPDも嗅ぎ付ければすぐに動き始めるだろう。
赤色に染まった空には摩天楼の明かりが灯され、綺麗な景色を描いていた。
もちろんこれも彼らからすれば見慣れた光景なのだが。
Ja「さて、サーシャの野郎にはお灸を据えてもらうことにするか」
ジェイクはホルスターに入れたハンドガンを取出し、安全装置を外す。そのまま、ハンドガンを手に持ち、睨みつけるような表情で拠点へと歩く。
Sa「聞こえてますよ、ジェイクさん」
Ja「てめーに聞こえるように言ったに決まってるだろ!」
インカムのスイッチは切っていないので、無論サーシャには駄々漏れだ。しかしこれもジェイクの作戦のうちのようである。
ジェイクが去り際、不気味に輝く、エイリアンのマーク。この清掃車はゼン帝国の所有物、とでもいうのだろうか。
彼らはもちろんこのゴミ収集車がどこの物であろうが、関係はないのだが。
サンフィエロ北、ガントブリッチを下ると広がるのはサンフィエロのビル群が一望できる小さな港町。
「ベイサイドエリア」と呼ばれるこの地域はボートスクールや、ヘリポートを有しており、田舎とはいえ、それなりに栄えている場所の一つだ。
都市部へのアクセスも比較的良いのも大きいだろう。
そんなベイサイドのサンフィエロを一望できる防波堤に彼女は居た。――カーラ・ラダメス
何故彼女はここに居るのかはわからない。ましてや朝日が昇り始めたこの早朝だ。
Calra(Ca)「…忠告しておいたけれど、派手にやっているみたいね」
カーラはサンフィエロを見つめながら口にする。
――忠告。おそらくは彼女がジェイクにした”忠告”のことだろう。
?「遅れてすまない」
Ca「…遅かったわね。まぁいいわ…車に乗ってちょうだい」
そこに現れたのは一人の男。カーラに声を掛ける。おそらく彼女と待ち合わせでもしていたのだろう。
その声に気付いたカーラは自分が乗り付けてきたコノシェンティにその男を乗せる。
Ca「…それで、そっちに何か動きがあったのかしら?」
相手の男はベストを着ており、その胸には「ZPD」を示すマークが描かれている。…となるとこの男は警官だろうか。
?「ああ、スカーレットグループに関することでZPDが尻尾を掴んだらしい。今日の昼過ぎにでもZPDは奴らの寝床にガサ入れをするだろう」
Ca「…随分仕事が速いのね。それで?あなたみたいな下級の警官が何で知っているのかしら?」
?「単純な事さ。ZPD全体で捜査が始まることになったのさ。俺がその”ガサ入れ”を担当する警官ってことだ」
Ca「なるほどね。それで…流石に今すぐ公共電波で”流す”のは不味いのでしょう?」
?「当然に決まってる」
Ca「なら話は早いわ。ガサ入れが終わってから私にメールを送ってちょうだい」
?「ああ…いいだろう」
Ca「いつもの口座に振り込んでおくわ」
カーラは微笑みながら男の方を向く。男は呆れたような表情を浮かべながら、カーラの方を向いたかと思えば、そのまま車から降り後にする。
カーラは黙って男を見届ける。男はそのまま角を曲がると見えなくなった。
Ca「後は彼からのメールを待つだけね。結果がどうであれチャンネル6が最初に放送をすることになるのだけれど」
カーラは嬉しそうな顔をしながら、車を走らせる為にアクセルを踏む。
と、ここで彼女は一つの広告に気付く。――”マーガトロイド探偵事務所”
Ca「探偵事務所…? サンフィエロにそんな探偵事務所があったのね。面白そうね…少し依頼でも出してみましょうか」
カーラは後部座席にある鞄からノートパソコンを取出し、起動する。
メールを開き、カーラは広告を見ながら記された連絡先へと連絡を取る。
TO:マーガトロイド探偵事務所
FROM:カーラ・ラダメス
TITLE:調査依頼
TV TOHOのCEO「射命丸文」についての詳細情報とTV TOHOの詳細情報の調査を依頼します。
報酬は内容を持ってして、決めさせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。
彼女はメールを打つと、送信ボタンを押す。無事に送信されたのが確認されるとパソコンを閉じ、鞄へと仕舞い、助手席の上に置いておく。
Ca「…良い情報が得られるといいのだけれど」
サンフィエロ ハシュバリー マンション
午前10時過ぎ。ジェイクは日ごろの疲れからか、この時間になってもベッドで横になっていた。
ジリリリリリ!
ジェイクのうるさい着メロの携帯が鳴り響く。
Jake(Ja)「あー…うっせぇな…今何時だと思って…」
ジェイクは眠い目をこすりながら、鳴り響く携帯に目を落とす。
表示されている時刻は”10:23AM”
Ja「…そういや今日サーシャに頼まれた仕事があったような気がするな…」
ジェイクは顔を少し青くしながら、着信記録を確認する。案の定記録として残されていた名前は”サーシャ”
1回だけと思われていた着信記録は合計で3回に及んでいた。他にもシェリーから2回ほど着信があった。
Ja「ヤベェなこりゃ…急がねーと」
ジェイクは起き上がると、すぐさま必要な物をまとめ、車のキーを持ち出す。その時間わずか1分。
足早に部屋を後にし、鍵をかけるとエントランスにあるポストに投げ入れる。
普段彼は持ち歩くことはせずに、常にエントランスにある宅配物集配用のポストに鍵を突っ込んでいる。
と言うのも、仕事柄持ち歩くのは危険であるからだが、かえってセキュリティー性に欠けるような気もするが…。
ガレージにすぐさま向かい、入れておいたインポンテ デュークスに乗り込み、エンジンを掛け急発進させる。
さすがは70年代の古き良きアメリカンマッスル。驚異的なスピードで急発進を見せてくれる。
ジェイクはこのじゃじゃ馬のようなマッスルカーを旨い具合に扱いこなし、通りへと走らせる。
その間に、彼は携帯でサーシャに連絡を取る。
Ja「あー…サーシャか?」
Sasha(Sa)「何やってるんですか!?約束の時間から2時間も経ってますよ!!」
Ja「すまねぇ…日頃の疲れがたまってたみたいでよ、爆睡しちまった」
Sa「何でもいいので早く来てください!」
Ja「仕事ったって何の仕事だよ?」
Sa「無駄口叩いてる暇あったら車飛ばしてすぐにでも拠点に来てください!」
一方的に咎められ、一方的に電話を切られてしまう。もちろんジェイクが悪いので彼が言えることではないが。
Ja「んな怒らなくたっていいだろうよ…」
ジェイクは参ったなという表情で車を走らせる。無論彼の家からルチャドールズの拠点までは
拠点へと到着すると、ジェイクは車のエンジンを切り、キーをポケットに入れておく。
Sa「2時間の遅刻ですよ!!わかってるんですか!!」
ジェイクが拠点に入って早々、サーシャはジェイクに怒鳴り散らす。
Ja「…んなこと言われたって最近忙しかったんだぞ?」
Sa「シェリーとまた愛の巣でまたやろうとしてたんですよね、私知ってますよ」
Sherry(Sh)「まぁまぁ、サーシャちゃん。ジェイクも来たことだし…そんなに怒らないであげて? ジェイクもここの所忙しかったんだし」
Sa「はぁ…仕方ありませんね。今日は見逃します。今日は」
Sh「ありがとう、サーシャちゃん」
怒り狂うサーシャを穏やかに微笑むシェリーが抑える。
ジェイクはシェリーに小声でありがとう、というと本題を切り出す。
Ja「それで…何の仕事だよ?」
Sh「爆弾を作るのに必要な素材を集めるの。それをジェイクに持ってきてもらいたくて…」
Ja「爆弾? 何に使うんだよ?」
Sa「簡単な話ですよ。ボスからの命令でエイリアンの軍も居る海軍基地を襲撃するんですよ」
Ja「何でそんな場所を襲うんだ?」
サーシャから伝えられたのは、ボスの思い付きで計画されたゼン帝国軍も使用する海軍基地の襲撃。
しかしあのボスが計画的な行動に出ると誰が予想しただろうか。
Ja「いつもならそのまま突っ込んで終わりだろ? なんで今回に限って計画的なんだ?」
Sa「というのも、ボスは殴りこみじゃなくて基地にある”栄養剤”を必要としてるんです」
Ja「栄養剤…?」
Sh「ゼン帝国が地球に持ち込んだ増強剤みたいなものなの…効果はすべてはわかっていないけれど…」
Ja「なるほどな…それで何が必要なんだ?」
Sa「ジェイクさんには建設現場にゴミ収集車を盗りに行ってもらいます」
Ja「ゴミ収集車? なんでそんなものが必要なんだよ?」
Sa「トラック爆弾を作るんです。敵の注意はそれで逸らして、その間にボートで基地内に侵入します。ターゲットの栄養剤は空母の中にあるという事までは掴めています」
あらかたジェイクは2人からこの計画を聞く。いわゆる”おとり作戦”だ。
と言ってもおとりになるのは爆弾であり誰かが危険にさらされるわけではないのだが。
Sh「私とサーシャちゃんで指示を出すわ。外にダリルさんがヘリを用意して待っているわ。お願いねジェイク」
Ja「ああ、わかった」
シェリーは少し心配そうな顔をしながら、ジェイクを送り出す。
ジェイクはというと手を振りながら”大丈夫だ”のサインを伝える。これまで大きな怪我はないのだ。今回も上手くいくだろう。
Daryl(Da)「よう、ジェイク」
Ja「久しぶりだな、ダリル」
彼はダリル・ディクソン。ルチャドールズの重要なメンバーの1人であり、主に援護を担当している他、”サプリ”や武器と言った取引に使うブツの配達を担当している。
Da「最後に会ったのはいつだったか?」
Ja「確かロアダストの配達の時だったと思うぜ」
Da「となると1週間前だな」
Ja「流石に日数までは覚えてないな」
2人は中々顔が合わせる事がなかったためか、このように1週間程度でもこのような会話を交わす。
ダリルは主に配達などを担当しているため、アタッカーである”襲撃者”のジェイクと顔を合わせる機会は少ないが、2人は仲が良い。
Ja「ダリル、お前も計画に加わるのか?」
Da「ああ、もちろん。ゴミ収集車を配置するのはなんたってこの俺だ」
Ja「お前と仕事するときはいっつも大きいヤマな気がするな…」
Da「んなこと気にするなんてお前らしくないぞ、ジェイク」
2人は穏やかな会話をしながら、ヘリへ乗り込む。ゆっくりとローター数をあげ、北へと舵を取る。
ここでジェイクとダリルはサーシャに渡されていたインカムを付ける。
Ja「サーシャ。ゴミ収集車を盗むわけだが…ダリルも協力するのか?」
その会話を聞いていたダリルはすかさず、
Da「俺はお前をポイントに運ぶだけだ。悪いな、ジェイク」
と答える。サーシャはダリルが先に答えたので、適当に「ダリルの言う通りよ」なんて答えながら、そのまま2人の会話を聞き入る。
その間、サーシャはジェイクとダリルの位置を随時GPSで確認する。2人の付けるインカムにはGPSが付いているのだ。その為、レーダーにはばっちりと2人の位置が映し出される。
ヘリは丘陵地帯を超え、やがてラスベンチュラスにもほど近い、砂漠地帯へと入っていく。
幸いなことに今日の砂漠地帯の天候は晴れ。風速もあまりない為、砂も舞い上がることはない。
Ja「チャンネル6の報道ヘリみたいな色だな」
Da「言われてみればそうだな…この際塗り替えるか」
Ja「リバースカラーの方がこのヘリには合いそうだな」
彼らの乗るバッキンガム マーベリックは民間用ヘリとしてとても名高い安価で高性能なヘリ。
運用元は民間だけでなく、テレビ局や警察機関などにも幅広く採用されている。
Sa「ダリルさん、そろそろポイントの建設現場です。ジェイクさんを降ろしてください」
Ja「だそうだ、ダリル」
Da「了解したぞ、嬢ちゃん」
ヘリはラスベンチュラスから少し外れた建設現場に着陸する。…と言ってももここは厳密には採掘場なのだが。
Da「先に拠点で待ってるからよ、今日は一杯やろうぜ」
Ja「ああ、もちろんだダリル。楽しみに待ってろよ?」
2人はそのやりとりを終えると、それぞれのミッションを遂行する。
ダリルはヘリをそのまま上昇させ、現場を離れ、ジェイクはそのまま歩を歩み始める。
Ja「おい、サーシャ」
Sa「はい、どうしました?」
Ja「…どこが建設現場なんだ? 俺が見る限り採掘場のようだが」
Sa「はあ…そんな細かい事気にしてどうするんですか? 通じればいいんですよ?」
Ja「いや、思ったから言っただけだ」
と、ここで疑問を抱き続けて来たジェイクが指摘をする。
無論彼にとってもサーシャにとってもどちらでもよいのだが。
Ja「…アシが必要だ。移動が面倒だぞサーシャ。近くに乗り物はねーのかよ?」
Sh「今現場のカメラを見てみるわ、ジェイク」
シェリーは現場のカメラをハッキングし、映像を映し出す。
歩を歩むジェイクが小さく遠方に見える。そこから下に下った場所にATVが見える。
Sh「ジェイク、そこから少し下った場所にATVがあるわ」
Ja「助かったぞ、シェリー」
シェリーの言う通り、少し下った場所にはATVが置かれていた。
ジェイクは移動するためにこのATVを盗み、そのまま最下層へと降りて行く。
Ja「そういえば今日はこの採掘場に人はいないのか?
Sa「日曜日なので今日はお休みです。だから人はいないはずです…多分」
工事現場、と言う意味ではあながちあっているのかもしれない。
採掘場には建設途中と思われる機材などが多く置かれている。日曜日がどうやら休止日のようだ。
Ja「何でゴミ収集車が採掘場に置かれてるんだよ…普通街中走ってる物だろ」
Sa「見つけたみたいですね。そのグレーのゴミ収集車がターゲットです」
Ja「ああ、そうかいそうかい」
ジェイクは適当にサーシャをあしらい、ゴミ収集車へと乗り込む。
幸いロックはかかっておらず、すんなりと乗り込むことが出来た。随分と不用心な事だ。
しかし何故、採掘場にゴミ収集車があるのか…それはさっぱり見当もつかない。
物資を輸送するなら、平台のトラックの方が便利だろう。
ドアの鍵が開いているのとは逆に、キーは刺さっておらず、またエンジンも掛かってない状態。
ジェイクはキーピッキングでエンジンを掛けるとギアをドライブに入れ、アクセルを踏む。
ブスン、と言う音と共に排気ガスがマフラーより排出される。
いくら時代が進み、燃費性能が上がったとはいえ、やはりガソリンでないと巨体であるトラックは動かないのだろう。
Ja「この後はどうすればいいんだ?」
Sa「拠点まで持ってきてくれます?」
Ja「ちょっと待て。この距離を鈍足の極みで来いって言ってるのか?」
Sa「ええ、そうですけど何か?」
Ja「ふ ざ け ん な」
直線距離にしてもおおよそ数十キロほどはあるだろう。採掘場からサンフィエロの拠点までこの鈍重の極みともいうべきゴミ収集車で来いというのだから流石にジェイクもキレたくなった。
Sa「…遅れてきた罰ですよ」
Ja「それとこれとは関係ねーだろ」
ジェイクは呆れたように悪態をつく。まったく、女と言う奴は。
平坦に乾いた道をトラックで行く。遠くにはサンフィエロのそびえ立つ摩天楼が確認できる。
カーナビがこの車両にはついていないが、端末の位置情報を見るに数十キロほど離れているようだ。
目立った渋滞もなく、車はスムーズに流れているが、この距離を鈍足の極みのようなトラックで走るのは過酷だろう。
ジェイクはアクセルを踏み込んではいるものの、速度はその力とは比例せず、むなしくも速度が上がることはない。
Ja「ホント、遅いなこのポンコツ…」
ジェイクはしびれを切らせ、さらにアクセルを踏み込む。と言ってもそれをしたところで速度が速くなるわけではないのだが。
Sa「すみません、思ったよりも時間がかかりそうなので右にある脇道から鉄橋に出てください」
Ja「本気で言ってるのか?」
Sa「やだなージェイクさん。私が冗談いうわけないじゃないですか」
Ja「…」
後100mほどで鉄橋をくぐる、というところでサーシャから提案されたのは”鉄橋を通って帰る”という提案。
確かにその方が、高速を通るよりも早く到着ができるが、安全性は確保できない。
ゴミ収集車は、脇道へと入り、鉄橋へと続く鉄道の線路へと侵入する。
Ja「おい、安全なのか?」
Sa「この時間帯にその鉄橋を通る鉄道は居ないので大丈夫…なはずです」
Ja「不安な事言いやがって…」
ジェイクは諦めたような顔をしながら、車両を線路へと侵入させる。
幸い左右共に電車の影は見えない。それを確認するとジェイクは車を線路に乗り上げさせ、サンフィエロのドハティ駅に向けて車を走らせる。
Ja「…帰ったら覚えておけよサーシャ」
Sa「なんか言いましたか?」
ジェイクは運転の疲労から、低くい声で相手に聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟く。
無論、サーシャには聞こえないわけだが。
ゴミ収集車は鉄橋の上を走り続ける。無論バックミラーにもフロントガラス越しにも鉄道の姿はない。
やがて、トンネルを抜け、ドハティ駅がすぐ見える。ジェイクはハンドルを右に切り、ドハティ駅の小さなロータリー
を抜け、通りへと出る。
陽は殆ど沈みかけ、暗闇が街を支配し始める。
時間も時間であるため、ライトを点灯している車も多く、町には明かりが多く灯され始める。
そんな中で不気味に赤色に光るレッドメタルを使用したゴミ収集車のホイール。ひときわ目立つその色に目が釘付けの人も多いようだ。
Ja「やっと到着か…」
ため息交じりに、ジェイクはトラックを拠点の、それも道路からは見えない、影になる場所へと運び込む。
仮にも盗難車だ。ZPDも嗅ぎ付ければすぐに動き始めるだろう。
赤色に染まった空には摩天楼の明かりが灯され、綺麗な景色を描いていた。
もちろんこれも彼らからすれば見慣れた光景なのだが。
Ja「さて、サーシャの野郎にはお灸を据えてもらうことにするか」
ジェイクはホルスターに入れたハンドガンを取出し、安全装置を外す。そのまま、ハンドガンを手に持ち、睨みつけるような表情で拠点へと歩く。
Sa「聞こえてますよ、ジェイクさん」
Ja「てめーに聞こえるように言ったに決まってるだろ!」
インカムのスイッチは切っていないので、無論サーシャには駄々漏れだ。しかしこれもジェイクの作戦のうちのようである。
ジェイクが去り際、不気味に輝く、エイリアンのマーク。この清掃車はゼン帝国の所有物、とでもいうのだろうか。
彼らはもちろんこのゴミ収集車がどこの物であろうが、関係はないのだが。