サンフィエロ バッテリーポイント プレジャードーム
サンフィエロ最北部、ガントブリッジの真下にあるストリップクラブ。
以前はジジー・Bというポン引きがこの店を仕切り、そして少し前まではトライアドが所有していたこの物件。
しかし今はどうだろう。今はトライアドを追い出したレジスタンスが拠点として使用している。
今は時刻にして午後の7時を回ったところ。普通ならこの手のクラブはこの時間から既に営業を開始していることが多いのだが、休みの日でないというのにプレジャードームは静まり返っている。
Tylor(Ty)「この中にアイツの”大切な友達”が居るんだよな」
ボスは乗り付けてきたルチャドールズ仕様のカヴァルゲートFXTをプレジャードームの駐車場に止めて降りると万が一のためのショットガンを片手にゆっくりと入口へと歩を歩める。
街灯と街明かりで非常に明るいサンフィエロだが、北部は海に面していることもあり、海は漆黒に染められ、少しばかり暗い。
プレジャードームは紫を基調とした内装と言うこともあり、非常に派手で”いかがわしさ”がぷんぷんするデザインで構築されている。
表が静まり返り、今日があたかもこのストリップクラブが休みであるということを感じさせるほどに室内は内装のデザインとは裏腹に静まり返り、奥の方が物音が聞こえるだけだ。
普段ならこのクラブには人の声やうっとおしいくらいに大音量で流れる音楽、ポールダンスをするダンサーたちに群がる者たちの声など等、環境音でうるさいはず。
……なのだが、今日ばかりはダンサーの姿も見えなければ仕事返りのサラリーマンの姿も見えない。これだけでも既に異常とも言える光景だが、それだけでは済まなかった。
Ty「相当派手に暴れたみたいだな」
中に入って少し歩いたところでいかにこの状況が異常で、この場所で何が起こったのかを物語るものを確認できた。
……そう、おそらくこのプレジャードームの従業員とここを仕切るレジスタンスの構成員の亡骸だろう。無残にも殴る蹴るなどの暴行を加えられたのか体には痣や切り傷も確認できる。
ボスからしてみればこんな惨状は慣れっこなのでそこまで精神的にダメージは入らないが、普通の人やあまり慣れていない警察官なら間違いなくこの惨い状況に気持ち悪さを覚えるだろう。
横たわる無残にも殺されてしまった亡骸を横目にボスは物音のするプレジャードームの奥の方へと進んでいく。おそらく”大切な友達”はそこに居る事だろう。
物音のする場所、おそらくはVIP優遇の席だろう。そこに正邪は腰を掛けて足元に横たわるつい先ほどおそらく殺したばかりであろう死体を眺めていた。
まだこちらの存在には気づいていないようだが、彼女の目と鼻の先にボスが着けば流石にこちらの存在には気づく事だろう。
Ty「随分と派手にやったんだな?」
ボスはあと数歩で彼女の目の前、というところで声を掛ける。おそらく少しは無駄な殺生を繰り返して落ち着いているのだろう。
見る限りではこちらをすぐにでも殺そう、というような気迫は見られない。一応お互い的通しであることを考慮すればそのような精神状態でいてくれているのならこれほど好都合な事はない。
もちろん今ここで片手に持っているショットガンで正邪の頭を吹き飛ばすことさえボスにとっては簡単な事だ。
でも今回は殺しに来たわけでもケンカしにきたわけでもない。「話し合いに」来たのだ。
正邪「お前は……」
正邪はボスの顔を見るなり怪訝そうな顔を浮かべ、少しばかり焦りの様な表情を浮かべる。
無理もないだろう、この場に居たすべての仲間を自らの手で殺めてしまったのだから。応戦体勢を取ろうにもボスを除いて今この場には自分一人しか、”生きている人”は居ないのだから。
このタイミングで敵対勢力に攻め込まれることなど想像ができただろうか。
Ty「ああ、お前も良く知ってるだろ? 今日は攻めに来たわけでも殺しに来たわけでもない。”話し合い”に来たんだ」
ボスは正邪の正面に立てば相手を眺めまわすように見ては口を開き、ここに来た理由を説明し始める。
Ty「お宅のボスをアタシらで今、預かっているもんでね。ここで何が起きたのか、アイツがアタシらのところに辿りついた理由も何から何まですべて聞いた」
ボスは的確に相手にしっかりと理解できる言葉で、わかりやすく話す。ボスの言葉を黙って正邪は受け取れば、ボスが言いきるのを待って口を開く。
正邪「誰だそいつは。私はそんな奴のことなんて知らないな。どうせそこらで野垂れ死んでいるかと思ったが」
正邪は針妙丸のことを「知らない」とは言いつつも、”そこらで野垂れ死んでいるかと思った”とも言った。つまり彼女は針妙丸を知っているということだ。
おそらく正邪からしてみれば喧嘩別れした針妙丸の事等思い出したくもないのだろう。とは言え、扱いが酷過ぎる。
Ty「よくもまあ自分の友達に向かってそういうことが言えるもんだな」
ケンカした友達通しの良くある態度、と言えばそれまでだが今はそんなことに付き合っている暇はない。
いくらケンカしているとはいえ、”大切な友達”を「死んでいるかと思った」などと簡単に口走る彼女の神経にボスは静かに怒りを浮かべる。
正邪「ふん、私はあいつを友達だと思ったことは一度もない。扱いやすい駒だと思ったことは何度もあるがな。あの程度の奴、いくらでも替えが利く」
正邪の答えはボスの想像を絶するようなとんでもない答えであった。
どこまでこいつが言っていることが本当かはわからない。だが、嘘にしても本当にしても言っていいことと悪いことがある。
次の瞬間、ボスは正邪に殴り掛かり、相手をはっ倒し、顔面に一発殴りを入れていた。
Ty「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
ボスは戦う意思の見えない正邪のうえへとまたがり、相手を威嚇するかのように声を荒げる。
片方の手で今にももう一度殴りそうな手をなんとか理性で留めているが、これがいつキレて、再び相手の顔面へとヒットするかはわかったものではない。
Ty「お前は自分のことを”大切な友達”だと言ってくれる人までもそういうふうにしか見れない可愛そうな奴なのか?」
続けてボスは言葉を続ける。ルチャドールズにおいて、ボスはメンバーを一度たりとも「駒」とは考えたことがない。それぞれが、それぞれの志や意思を持って行動しているのだ。
時にはボスが自らの利の為に彼らを動かすことはあるが、それはボスの人望があってのことでもある。無理にやりたくもないような仕事をやらせようとは考えていないのだ。
しかしコイツはどうだ。正邪はレジスタンスのメンバーを使い捨ての駒として扱い、そして自らを「大切な友達」と言ってくれる人間までも彼女は「扱いやすい駒」だといい切った。
必要な時には使えるだけ使い、必要がなくなり、邪魔になれば使い捨ての紙コップのように捨てる。確かに世の中にはそんな人間は確かに五万といる。
だとしても「大切な友達」と言ってくれる人間までもそのような扱いをする人間的ではない人間はそうは居ないだろう。
ボスの中で一つの糸がぷっちり切れたと言っても過言ではないだろう。
ボスは抑えの利かなくなった殴りそうだって手でもう一発正邪の顔面を殴ると、相手から降りてソファーに腰掛けて自らを落ち着かせに入る。
もしあのまま正邪の顔を見ていたら怒りのあまり殴り殺してしまいかねない。針妙丸には”殺さない”と伝えてある以上、彼女をここで殺すことが出来たとしても殺す真似はできない。
正邪「何が言いたい……私が部下をどう扱おうが、お前には関係のない話だろう」
正邪は軽く起き上がり、壁にもたれかかるとボスに顔を向けて口を開く。
正邪の言い分はもっともだ。ルチャドールズ、はレジスタンスの敵対組織であり一切関係はない。つまりは部外者だ。関係ないと言えばそれまでだ。
しかし針妙丸がルチャドールズの拠点で力を尽きかけたのも、きっと何かの縁。それにボスは針妙丸を何故か放っておくことが出来なかった、というのもある。
それはボスがあの小さく貧弱な体にたくさん詰め込まれた人としての重みを持った人間をただ助けたい、という思いともう1つ、の考えがあっての事だ。
Ty「ああ、確かにアタシらは関係ない。だがアンタらの喧嘩を放っておくわけにもいかない。なんたってこの街は”アタシの街”だからな」
サンフィエロのほとんどを支配下に置いているルチャドールズ。
北部は拠点から離れているのもあり、一部は他の組織に占領されているが、実質的な影響力を持つのは他でもない、ルチャドールズだ。
つまりこの街のほとんどはボスが支配しているようなものであり、そしてこういう”ケンカ”の仲裁や仲直りを保つのも”一番上に立つ人間として必要な事”だ。
Ty「お前はどうしてシンジケートに盾突いたり、この街の組織を潰そうとした?」
ボスは続けて正邪に問う。レジスタンスの後ろに何かしらの勢力が居ることは間違いないのだが、だとしても何故このタイミングでこの州でもっとも影響力を持つであろう、シンジケートに盾を突いたり、残党とも言えるような犯罪組織を潰したのか。
針妙丸が”飾りだけのボス”だったことが分かった今、この組織を動かしていたのは紛れもなくコイツだ。仮に仲直りさせることが出来なくとも、針妙丸の件とは別に”シンジケートが知りたい情報を突き止める事”も1、メンバーとして為すべきことだ。
正邪「私が望むのはただ一つ。下克上だ。 強者が力を失い、弱者が統べる世界を望むのだ」
レジスタンスという名前が意味する通り、強者に対して抵抗し、そして弱者が強者の上に立つ世界を作り上げることが正邪の目的。
とは言っても彼女には少々荷が重すぎたのか、結局はその目的も叶わぬまま、内側からゆっくりと崩壊して行ってしまったように見える。
Ty「アンタらの目的が”下剋上”なら確かにアタシらシンジケートを狙うのもいいだろう。だが、アタシらよりももっと”下剋上”するべき相手が”後ろ”に居るんじゃないか?」
ボスは正邪の言い分を聞き入れたうえで、ある1つの提案をする。
シンジケートがサンアンドレアスにおける一大勢力になったことを考慮すれば、正邪、いやレジスタンスがシンジケートに盾を突くのはごく自然の事。
だが、お互いこのまま敵対したまま同じサンアンドレアスで暮らすよりも、互いに手を取り合ってレジスタンスの後ろに居るもっと巨大な巨悪に立ち向かう方が賢いのではないか、ボスはそう考えたのだ。
もちろん彼らの口から直接言及されたわけではない。
だが、アルター社やスカーレットグループの調べでレジスタンスの後ろには9割以上の確率でゼン帝国が居ることは間違いないのだ。
そうでなければ弱小とも言える犯罪者集団がここまでサンアンドレアスの裏社会に影響を与えることなどできないのだ。
正邪「お前達は……あいつに挑むつもりなのか?」
正邪は真っ直ぐボスを見たかと思えば一言、”あいつに挑むのか?”と問う。
ボスからしてみればルチャドールズの邪魔になる物は徹底的に潰す主義なので答えは一つしかない。「YES」だ。
Ty「アタシたちは絶対に”奴ら”をぶっ潰す。それに協力するもしないもお前次第だ。協力するならアタシの方からみんなに話を付けてやる」
ボスの意思は何を言われようと変わりはない。絶対に揺るがないのだ。一度潰すと決めた相手は絶対に潰す。
もちろんケースバイケースでルチャドールズの利益に働くのなら時には手のひらを返すこともないわけではない。
しかし少なくとも実害の多いゼン帝国の方に寝返ることは絶対にないだろう。ボスはどこかそれを確信していた。
もし正邪が、レジスタンスが協力するというのならルチャドールズが責任を持って、この組織をシンジケートに引き入れる。しっかりと他のメンバーに話を付けてだ。
万が一裏切りでも発生した時はしっかりボスが”落とし前をつける”条件で。
Ty「お前は一生、あのクソ野郎の下で終わるつもりはないんだろう?」
今度はボスが正邪へと問う。正邪の意思を汲み取るとすれば、彼女はおそらくゼン帝国の駒としてそのまま終わらせるつもりは絶対にないはずだ。
少なくともシンジケートではそれぞれの組織は”対等”に扱われる。規模が大きかろうが小さかろうがお互いがお互いの利益の為に、お互いを守るために行動するのだから。
このシンジケートにゼン帝国にいい様に使われているレジスタンスを引きこむことが出来れば、ゼン帝国の情報をおそらくこちらよりももっと多く持っているレジスタンス。ゼン帝国潰しに役立つに違いがないのだ。
Ty「少なくともお前の”大切な友達”はお前の選んだ道に従って着いてきてくれるはずだ。……後はお前が選ぶだけだ」
ボスは最後に付け加えるように針妙丸について触れる。針妙丸とは出会って数時間だというのに既に彼女ならどうするかをボスは見透かしていた。これもボスの能力と言えば能力なのかもしれない。
おそらく針妙丸は正邪が選んだ答えにきっと着いて行くはず。そう睨んでいるのだ。それが痛いほど正邪にはわかるはずだ。
残すは正邪が今後をどうするか選択するだけだ。
正邪「……忘れるな、私の目的はあくまで下克上。それが終わったら、後は勝手にやらせてもらうぞ。それでもいいなら、協力してやる」
正邪の答えは「YES」。少々ひねくれた回答なのはやはり彼女の性格によるものだろう。
何はともあれこれでレジスタンスが晴れてシンジケートの仲間となった。
彼女の言う通り、一時的による物なのか、それとも継続される長期的な物になるのかは検討がつかないが、お互いの目的は同じ”ゼン帝国を潰す”ということだ。
Ty「好きにしろ。アタシは先に戻って針妙丸に伝えておく。アイツの様子が気になるならアタシらの拠点に来い。うちの連中にお前が来たら通すように伝えておく」
ボスは正邪に伝えるべきこと、針妙丸に会いたいのならルチャドールズの拠点へ来いということだけを伝えると、血に塗られたプレジャードームを後にする。
こうしてまた1つの勢力がシンジケートに加わり、そして強大な悪へと立ち向かっていくのだ。
Act.22/Act.24
サンフィエロ最北部、ガントブリッジの真下にあるストリップクラブ。
以前はジジー・Bというポン引きがこの店を仕切り、そして少し前まではトライアドが所有していたこの物件。
しかし今はどうだろう。今はトライアドを追い出したレジスタンスが拠点として使用している。
今は時刻にして午後の7時を回ったところ。普通ならこの手のクラブはこの時間から既に営業を開始していることが多いのだが、休みの日でないというのにプレジャードームは静まり返っている。
Tylor(Ty)「この中にアイツの”大切な友達”が居るんだよな」
ボスは乗り付けてきたルチャドールズ仕様のカヴァルゲートFXTをプレジャードームの駐車場に止めて降りると万が一のためのショットガンを片手にゆっくりと入口へと歩を歩める。
街灯と街明かりで非常に明るいサンフィエロだが、北部は海に面していることもあり、海は漆黒に染められ、少しばかり暗い。
プレジャードームは紫を基調とした内装と言うこともあり、非常に派手で”いかがわしさ”がぷんぷんするデザインで構築されている。
表が静まり返り、今日があたかもこのストリップクラブが休みであるということを感じさせるほどに室内は内装のデザインとは裏腹に静まり返り、奥の方が物音が聞こえるだけだ。
普段ならこのクラブには人の声やうっとおしいくらいに大音量で流れる音楽、ポールダンスをするダンサーたちに群がる者たちの声など等、環境音でうるさいはず。
……なのだが、今日ばかりはダンサーの姿も見えなければ仕事返りのサラリーマンの姿も見えない。これだけでも既に異常とも言える光景だが、それだけでは済まなかった。
Ty「相当派手に暴れたみたいだな」
中に入って少し歩いたところでいかにこの状況が異常で、この場所で何が起こったのかを物語るものを確認できた。
……そう、おそらくこのプレジャードームの従業員とここを仕切るレジスタンスの構成員の亡骸だろう。無残にも殴る蹴るなどの暴行を加えられたのか体には痣や切り傷も確認できる。
ボスからしてみればこんな惨状は慣れっこなのでそこまで精神的にダメージは入らないが、普通の人やあまり慣れていない警察官なら間違いなくこの惨い状況に気持ち悪さを覚えるだろう。
横たわる無残にも殺されてしまった亡骸を横目にボスは物音のするプレジャードームの奥の方へと進んでいく。おそらく”大切な友達”はそこに居る事だろう。
物音のする場所、おそらくはVIP優遇の席だろう。そこに正邪は腰を掛けて足元に横たわるつい先ほどおそらく殺したばかりであろう死体を眺めていた。
まだこちらの存在には気づいていないようだが、彼女の目と鼻の先にボスが着けば流石にこちらの存在には気づく事だろう。
Ty「随分と派手にやったんだな?」
ボスはあと数歩で彼女の目の前、というところで声を掛ける。おそらく少しは無駄な殺生を繰り返して落ち着いているのだろう。
見る限りではこちらをすぐにでも殺そう、というような気迫は見られない。一応お互い的通しであることを考慮すればそのような精神状態でいてくれているのならこれほど好都合な事はない。
もちろん今ここで片手に持っているショットガンで正邪の頭を吹き飛ばすことさえボスにとっては簡単な事だ。
でも今回は殺しに来たわけでもケンカしにきたわけでもない。「話し合いに」来たのだ。
正邪「お前は……」
正邪はボスの顔を見るなり怪訝そうな顔を浮かべ、少しばかり焦りの様な表情を浮かべる。
無理もないだろう、この場に居たすべての仲間を自らの手で殺めてしまったのだから。応戦体勢を取ろうにもボスを除いて今この場には自分一人しか、”生きている人”は居ないのだから。
このタイミングで敵対勢力に攻め込まれることなど想像ができただろうか。
Ty「ああ、お前も良く知ってるだろ? 今日は攻めに来たわけでも殺しに来たわけでもない。”話し合い”に来たんだ」
ボスは正邪の正面に立てば相手を眺めまわすように見ては口を開き、ここに来た理由を説明し始める。
Ty「お宅のボスをアタシらで今、預かっているもんでね。ここで何が起きたのか、アイツがアタシらのところに辿りついた理由も何から何まですべて聞いた」
ボスは的確に相手にしっかりと理解できる言葉で、わかりやすく話す。ボスの言葉を黙って正邪は受け取れば、ボスが言いきるのを待って口を開く。
正邪「誰だそいつは。私はそんな奴のことなんて知らないな。どうせそこらで野垂れ死んでいるかと思ったが」
正邪は針妙丸のことを「知らない」とは言いつつも、”そこらで野垂れ死んでいるかと思った”とも言った。つまり彼女は針妙丸を知っているということだ。
おそらく正邪からしてみれば喧嘩別れした針妙丸の事等思い出したくもないのだろう。とは言え、扱いが酷過ぎる。
Ty「よくもまあ自分の友達に向かってそういうことが言えるもんだな」
ケンカした友達通しの良くある態度、と言えばそれまでだが今はそんなことに付き合っている暇はない。
いくらケンカしているとはいえ、”大切な友達”を「死んでいるかと思った」などと簡単に口走る彼女の神経にボスは静かに怒りを浮かべる。
正邪「ふん、私はあいつを友達だと思ったことは一度もない。扱いやすい駒だと思ったことは何度もあるがな。あの程度の奴、いくらでも替えが利く」
正邪の答えはボスの想像を絶するようなとんでもない答えであった。
どこまでこいつが言っていることが本当かはわからない。だが、嘘にしても本当にしても言っていいことと悪いことがある。
次の瞬間、ボスは正邪に殴り掛かり、相手をはっ倒し、顔面に一発殴りを入れていた。
Ty「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
ボスは戦う意思の見えない正邪のうえへとまたがり、相手を威嚇するかのように声を荒げる。
片方の手で今にももう一度殴りそうな手をなんとか理性で留めているが、これがいつキレて、再び相手の顔面へとヒットするかはわかったものではない。
Ty「お前は自分のことを”大切な友達”だと言ってくれる人までもそういうふうにしか見れない可愛そうな奴なのか?」
続けてボスは言葉を続ける。ルチャドールズにおいて、ボスはメンバーを一度たりとも「駒」とは考えたことがない。それぞれが、それぞれの志や意思を持って行動しているのだ。
時にはボスが自らの利の為に彼らを動かすことはあるが、それはボスの人望があってのことでもある。無理にやりたくもないような仕事をやらせようとは考えていないのだ。
しかしコイツはどうだ。正邪はレジスタンスのメンバーを使い捨ての駒として扱い、そして自らを「大切な友達」と言ってくれる人間までも彼女は「扱いやすい駒」だといい切った。
必要な時には使えるだけ使い、必要がなくなり、邪魔になれば使い捨ての紙コップのように捨てる。確かに世の中にはそんな人間は確かに五万といる。
だとしても「大切な友達」と言ってくれる人間までもそのような扱いをする人間的ではない人間はそうは居ないだろう。
ボスの中で一つの糸がぷっちり切れたと言っても過言ではないだろう。
ボスは抑えの利かなくなった殴りそうだって手でもう一発正邪の顔面を殴ると、相手から降りてソファーに腰掛けて自らを落ち着かせに入る。
もしあのまま正邪の顔を見ていたら怒りのあまり殴り殺してしまいかねない。針妙丸には”殺さない”と伝えてある以上、彼女をここで殺すことが出来たとしても殺す真似はできない。
正邪「何が言いたい……私が部下をどう扱おうが、お前には関係のない話だろう」
正邪は軽く起き上がり、壁にもたれかかるとボスに顔を向けて口を開く。
正邪の言い分はもっともだ。ルチャドールズ、はレジスタンスの敵対組織であり一切関係はない。つまりは部外者だ。関係ないと言えばそれまでだ。
しかし針妙丸がルチャドールズの拠点で力を尽きかけたのも、きっと何かの縁。それにボスは針妙丸を何故か放っておくことが出来なかった、というのもある。
それはボスがあの小さく貧弱な体にたくさん詰め込まれた人としての重みを持った人間をただ助けたい、という思いともう1つ、の考えがあっての事だ。
Ty「ああ、確かにアタシらは関係ない。だがアンタらの喧嘩を放っておくわけにもいかない。なんたってこの街は”アタシの街”だからな」
サンフィエロのほとんどを支配下に置いているルチャドールズ。
北部は拠点から離れているのもあり、一部は他の組織に占領されているが、実質的な影響力を持つのは他でもない、ルチャドールズだ。
つまりこの街のほとんどはボスが支配しているようなものであり、そしてこういう”ケンカ”の仲裁や仲直りを保つのも”一番上に立つ人間として必要な事”だ。
Ty「お前はどうしてシンジケートに盾突いたり、この街の組織を潰そうとした?」
ボスは続けて正邪に問う。レジスタンスの後ろに何かしらの勢力が居ることは間違いないのだが、だとしても何故このタイミングでこの州でもっとも影響力を持つであろう、シンジケートに盾を突いたり、残党とも言えるような犯罪組織を潰したのか。
針妙丸が”飾りだけのボス”だったことが分かった今、この組織を動かしていたのは紛れもなくコイツだ。仮に仲直りさせることが出来なくとも、針妙丸の件とは別に”シンジケートが知りたい情報を突き止める事”も1、メンバーとして為すべきことだ。
正邪「私が望むのはただ一つ。下克上だ。 強者が力を失い、弱者が統べる世界を望むのだ」
レジスタンスという名前が意味する通り、強者に対して抵抗し、そして弱者が強者の上に立つ世界を作り上げることが正邪の目的。
とは言っても彼女には少々荷が重すぎたのか、結局はその目的も叶わぬまま、内側からゆっくりと崩壊して行ってしまったように見える。
Ty「アンタらの目的が”下剋上”なら確かにアタシらシンジケートを狙うのもいいだろう。だが、アタシらよりももっと”下剋上”するべき相手が”後ろ”に居るんじゃないか?」
ボスは正邪の言い分を聞き入れたうえで、ある1つの提案をする。
シンジケートがサンアンドレアスにおける一大勢力になったことを考慮すれば、正邪、いやレジスタンスがシンジケートに盾を突くのはごく自然の事。
だが、お互いこのまま敵対したまま同じサンアンドレアスで暮らすよりも、互いに手を取り合ってレジスタンスの後ろに居るもっと巨大な巨悪に立ち向かう方が賢いのではないか、ボスはそう考えたのだ。
もちろん彼らの口から直接言及されたわけではない。
だが、アルター社やスカーレットグループの調べでレジスタンスの後ろには9割以上の確率でゼン帝国が居ることは間違いないのだ。
そうでなければ弱小とも言える犯罪者集団がここまでサンアンドレアスの裏社会に影響を与えることなどできないのだ。
正邪「お前達は……あいつに挑むつもりなのか?」
正邪は真っ直ぐボスを見たかと思えば一言、”あいつに挑むのか?”と問う。
ボスからしてみればルチャドールズの邪魔になる物は徹底的に潰す主義なので答えは一つしかない。「YES」だ。
Ty「アタシたちは絶対に”奴ら”をぶっ潰す。それに協力するもしないもお前次第だ。協力するならアタシの方からみんなに話を付けてやる」
ボスの意思は何を言われようと変わりはない。絶対に揺るがないのだ。一度潰すと決めた相手は絶対に潰す。
もちろんケースバイケースでルチャドールズの利益に働くのなら時には手のひらを返すこともないわけではない。
しかし少なくとも実害の多いゼン帝国の方に寝返ることは絶対にないだろう。ボスはどこかそれを確信していた。
もし正邪が、レジスタンスが協力するというのならルチャドールズが責任を持って、この組織をシンジケートに引き入れる。しっかりと他のメンバーに話を付けてだ。
万が一裏切りでも発生した時はしっかりボスが”落とし前をつける”条件で。
Ty「お前は一生、あのクソ野郎の下で終わるつもりはないんだろう?」
今度はボスが正邪へと問う。正邪の意思を汲み取るとすれば、彼女はおそらくゼン帝国の駒としてそのまま終わらせるつもりは絶対にないはずだ。
少なくともシンジケートではそれぞれの組織は”対等”に扱われる。規模が大きかろうが小さかろうがお互いがお互いの利益の為に、お互いを守るために行動するのだから。
このシンジケートにゼン帝国にいい様に使われているレジスタンスを引きこむことが出来れば、ゼン帝国の情報をおそらくこちらよりももっと多く持っているレジスタンス。ゼン帝国潰しに役立つに違いがないのだ。
Ty「少なくともお前の”大切な友達”はお前の選んだ道に従って着いてきてくれるはずだ。……後はお前が選ぶだけだ」
ボスは最後に付け加えるように針妙丸について触れる。針妙丸とは出会って数時間だというのに既に彼女ならどうするかをボスは見透かしていた。これもボスの能力と言えば能力なのかもしれない。
おそらく針妙丸は正邪が選んだ答えにきっと着いて行くはず。そう睨んでいるのだ。それが痛いほど正邪にはわかるはずだ。
残すは正邪が今後をどうするか選択するだけだ。
正邪「……忘れるな、私の目的はあくまで下克上。それが終わったら、後は勝手にやらせてもらうぞ。それでもいいなら、協力してやる」
正邪の答えは「YES」。少々ひねくれた回答なのはやはり彼女の性格によるものだろう。
何はともあれこれでレジスタンスが晴れてシンジケートの仲間となった。
彼女の言う通り、一時的による物なのか、それとも継続される長期的な物になるのかは検討がつかないが、お互いの目的は同じ”ゼン帝国を潰す”ということだ。
Ty「好きにしろ。アタシは先に戻って針妙丸に伝えておく。アイツの様子が気になるならアタシらの拠点に来い。うちの連中にお前が来たら通すように伝えておく」
ボスは正邪に伝えるべきこと、針妙丸に会いたいのならルチャドールズの拠点へ来いということだけを伝えると、血に塗られたプレジャードームを後にする。
こうしてまた1つの勢力がシンジケートに加わり、そして強大な悪へと立ち向かっていくのだ。
Act.22/Act.24